2017年、The Weeknd & Daft Punkがリリースした「I Feel It Coming」のミュージックビデオに出演。YouTubeでは2億回以上の再生数を誇る。女優活動としてさまざまな映画やテレビ番組に出演。『ノルウェイの森』(2010年)がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞にノミネート。実写化が話題となった『進撃の巨人』(2015年)にも出演。モデルとしてはニューヨーク、ミラノ、パリのファッションウィークに参加。またデザイナーとして<Kiko Mizuhara for OPENING CEREMONY>を発表し、自身のプロジェクトOKでは<MINE DENIM>や<ESPERANZA>とのコラボレーションラインも発表。アジア人初の<Dior Beauty>アンバサダーに抜擢、<COACH>のアンバサダーとしても広告に出演している。
OK(Office Kiko)ウェブサイト:https://officekiko.com/
日本のみならず、世界を舞台に、女優、モデル、デザイナー、アート、音楽など、多岐にわたりクリエイティブに活躍する水原希子さん。SNSでもソーシャルな話題や情報を自身のコトバでアクティブに発信し続けています。そんな、強く自由に美しく生きる希子さんが語る、「本当の美しさ」って?
希子さんは、「最も美しい顔ランキング」についてコメントしていましたね。改めて、このランキングの何を問題だと感じたのかを教えてください。
私が最初にこのランキングがあることを知ったのは、確かネットニュースかテレビでした。正式な団体の投票で決まるのかと思ったら、実は一人の男性が独断でランク付けしているということがわかりました。
私がこの件で一番懸念しているのは、このランキングがまるであるオフィシャルな団体によって投票されているかのようにメディアが大きく報道していること。世の中にすごく大きな誤解を招いていて、一人の男性が思う美の価値観がまるで多数の人の意見かのように報道されている。そして何より、私自身の外見が他の人と比べられて順位を付けられるというのは個人的には気持ちいいことではないですね。
ルッキズム(外見至上主義)についても語っていましたね。
私がファッションモデルになりたいと思ったこと自体が「ルッキズム」(外見至上主義)にとらわれた価値観の中で生きてきた影響なのかもしれないし、実際はこの世界には美の偏見が溢れていると思います。私自身も17歳の頃、当時活躍していた雑誌のトップモデルの方たちに憧れて、モデルの世界に飛び込んだので。
モデルの現場は実際にはどんなものだったのでしょう?
雑誌ViViの現場では、ずっと憧れていたモデルの先輩たちがイメージと全く違ったことに驚きました。それまでは、ただただ「キレイで完璧であること」がモデルのイメージだったんです。でも実際には全く違って。その先輩方は見た目のキレイさを超えて、「え、この人めっちゃ面白い」って人ばかりでした。
面白いほうがいい。10代後半でそれに気付いたのは大きかったですね。
それをきっかけに、ある意味楽になれて、解放された感じがありましたね。服装、化粧にしても、自分の良いと思う基準でできるようになって、より楽しめるようになりました。
モデルの世界に入ったことで、逆に見た目だけではない魅力の大切さに気づけたのですね。
自分の中にあった「かわいい」「キレイ」の概念が崩れ落ちてきました。美は外見の美しさではなくて、個性や自信みたいなものなんだな、と。そのときに、憧れのViViのトップモデルの先輩方の近くで、私はどうしたらより自分らしい個性を探せるのかなと考え始めました。周りがやっていないようなこと、流行と真逆なことをやろうと思って、髪を暗く染めたり、肌を焼かなかったり、カラコンも入れず、赤いリップを塗ったりしました。そうやって、自分の個性を探していったんです。
個性的なファッションをすることでどう変わりましたか?
ありがたいことに面白がってもらえて、個性的なモデルとしてピックアップされるようになりました。すぐに表紙を飾れるまではいかなかったけど、前よりも興味を持ってもらえたし、私がどういう人間だからそうなったのか、もっと注目される機会が増えましたね。そこで私はやっぱり、“面白い”人になるということが大事だなって確信したんです。
希子さんにとって、“面白い”人とはどんな人ですか?
自分自身が楽しいと思えることをやりきる人。そして、自信がある、説得力がある人。そういう人の表情は魅力的でカッコいいと思います。
自信をつけるためには、コンプレックスを乗り越えることが必要ですが、希子さんご自身は何かコンプレックスはありましたか?
私の場合、日本で育ち日本の学校に通っていたけど、父親が白人でブルーアイズ、当時の名前はダニエル・希子だったので、不思議な目で見られていたんです。子どもは素直だから、自分と違うものに対して好奇心から変だなって思ってしまう。別にいじめられていたわけではないけど、「変なの」って普通に言われたりして、いつも自分が“違う”という感覚の中で生きてきました。子どもの頃からどこか変なふうに見られていることに対してコンプレックスがありましたね。
逆に、希子さんはご自身のことを「かわいい」「キレイ」と言われることに何か思うことはありますか?
単純に褒めてくれているからうれしいと思います。ただ、身体的な特徴について言われると戸惑ってしまって。「そんなに顔が小さいんだ!」「すごく細い!」と言われると、やっぱり変なのかなと感じるというか。普通の人と違うというニュアンスを感じると、どう返していいのかわからなくなる。なかでも、細いということには多少なりともコンプレックスを持っているので。
どうしてですか?
私自身、体質的に痩せやすいんです。仕事が忙しくてご飯をゆっくり食べられないとき、精神的に疲れているとき、特に映画の撮影時期には緊張状態が続くので、思考が食事に回らなくなってしまって。ちょっと食欲がなくなったりすると痩せてしまう。それが自分にとってストレスになっていて、「え、健康じゃないように見えますか?」と聞きたくなる。身体のことを言われて、ポジティブに受け止められることは少ないかな。
「太ってる」は悪口だけど「痩せてる」は褒め言葉という意識が日本には根深くあると思います。
外見に対する言葉はすごくセンシティブだと思うし、外見を気にすること自体がいろいろな人のコンプレックスにつながっていると思います。日本では痩せていることが良いという基準というか呪縛がすごくありますよね。世界的にそういうことは覆されているのに。ファッション界でも率先して多様なボディタイプのモデルを起用する流れになっているから、それがアジアでも浸透していくといいなと思います。
たとえば多様な美の価値観として、どんなことに気づきましたか?
最近すごくユニークだと思ったのは、<カルバン・クライン>のアメリカの広告に黒人の大柄な女性が起用されていたことですね。いわゆるプラスサイズモデルがカルバン・クラインの広告ポスターとして大々的にニューヨークの街に張り出されている。以前の広告は典型的なスーパーモデルの白人女性が水着を着ていたんですね。いろいろなことをいいねと思える気持ちが大事だというメッセージを感じました。
容姿についての固執やこだわりは、年齢と経験を積み重ねないと解放されない部分が大きいかもしれません。でも10代の頃から容姿の感覚を変えられるとしたら、希子さんはどうすればいいと思いますか?
10代の頃って自分の住んでいる世界が狭いですよね。学校があって、家族や友達がいる世界というか。その小さい規模が大人になると大きくなって、「あ、全然大丈夫じゃん」ってわかることが増えていくけど、若いときの自分の写真を振り返ってみると、必死に周りに合わせて染まろうとしていたのが伝わってきて、胸が痛くなります。よく頑張ったなって。自分じゃないようにしていたというか。
10代は「みんなと同じ」ことに安心を感じる時期かもしれません。
周りのみんなと、何か少しでも違うことをすると、周りからは「何それ?」と不思議がられてしまうんです。だから、私の場合は英語を話すことも封印していました。アメリカ人であることへの反応がすごかったから、それだけでめちゃくちゃ周りと違うという雰囲気だったので、なんとか隠そうとして。「私、全然そんなことないよ、超日本人だよ」みたいな感じで、ひとつの型に入ろうとしていました。今の10代の子たちは、SNSを活用して広い世界を見ることはできると思います。でも、SNSは自分で選択しているものだから、意外と視野が限られていたりする。私はラッキーなことに面白い大人に出会ったことで価値観が変わりました。
たしかに。その人がいる場所によって難しい部分はありますね。
家族や学校の先生を中心に、周りの大人が気遣って、「大丈夫だよ」と声をかけることが大事ではないかなと思います。「そのままでいいんだよ」の一言が、子どもが新しい世界を見るきっかけになるかもしれないから。学校の授業でそういうことをやっていけると、もっと効果があるかもしれない。大人の協力なしに子どもは変われないから。
子どもたちだけで変わることは難しい。
でも、TikTokなんかを見ていると、ジェンダーにとらわれない若者たちがたくさん出てきていて、それはすごく希望だなと思いました。大切なのは、どれだけ人生を楽しんで豊かにしていくのか。音楽やアートにも触れて、内面から豊かな人間になっていってほしい。それが自分を幸せにするということを伝え続けていきたいですね。
希子さんもSNSで社会のためのメッセージを発信していますね。
「みんな違って、みんないい」って言葉にするのは簡単だけど、心からそんな世界になって欲しいなと思います。外見以外にも人種やすべてのことを含めて何も不思議でなくなるところに到達したいと思って、SNSでも発信をしています。何が良い、悪いではなくて、いろいろな価値観があることが正しい姿なんだなって。私は“キレイ”だけではくくれない価値観があることを自分の活動を通して伝えたいんです。記事とかになると受け取られ方が難しいし、分断も生まれてしまう。実際、自分のSNSのコメント欄でたくさんの人たちが争っているのを見るととても心が痛みます。どうやって伝えるのが一番正しいのか。正直、その答えはまだ見つからないです。でも、だからこそ、これからも自分の本当に伝えたいことを伝えていきたいと思っています。
取材:I LADY.編集部
文・編集:加藤将太