福田和子さん
2019年3月、国際基督教大学卒業。日本国内で性と生殖の健康に関する啓発・アドボカシー活動を行う。日本における女性の権利と健康を巡る歴史の研究、スウェーデンでの1年間の留学生活を経て、日本では特に若年女性のSRHRが守られていないことを痛感。若者が当たり前に性の健康を守れる社会になってほしいと考え、2018年5月に「#なんでないの プロジェクト」を立ち上げた。性の健康世界学会(WAS) Youth Initiative Committee委員、性の健康医学財団・機関誌『性の健康』編集委員。
山本和奈さん
Voice Up Japan代表、中南米の教育支援活動を手掛けるNGO「Educate For」代表。香港で生まれ、6歳までシンガポールで育つ。2019年6月、国際基督教大学卒業。学業のかたわら複数のNGOや企業を立ち上げ、幅広く活動している。日本におけるジェンダーの問題を直視し、声を上げられない社会を変えていきたいと、女性蔑視記事を掲載した出版社に対して抗議活動を行い、約5万人の署名を集めた。
<Women Deliver>(ウーマン・デリバー)は、2007年から3年ごとに開催されている、ジェンダーと女性のエンパワーメント、そしてSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)をテーマにした世界最大級の国際会議です。2019年6月、カナダのバンクーバーで開催された<Women Deliver 2019>に、ジョイセフは二人のI LADY.アクティビストを派遣しました。大学を卒業したばかりの福田和子さんと山本和奈さん、それぞれが<Women Deliver>で感じたことについて語ります。
山本さんと福田さんがSRHR*やジェンダーに関心を持ったきっかけと、自ら発信するようになったきっかけを教えてください。
山本:もともと私の家庭では普段から政治の議論などをよくしていて、大学生になったときには、あまり政治に興味を持っていないことを母に叱られたほどでした。母は伝統的な日本の家庭で育っていたので、問題意識が強かったのだと思います。その後、南米などで人々が社会問題について声を上げる様子や、#MeToo関連のさまざまな記事を読んで、「他人に何かしてもらうことを待っているだけではダメだ」と考えるようになったことが、<Voice Up Japan>を立ち上げ、積極的に声を上げ始めたきっかけです。現在は、南米のチリやペルーで子ども食堂を開いて、あらゆる子どもたちのリーダーシップの育成や、親世代に向けた性教育などを進めていこうとしています。
福田:私は大学で、かつての吉原などに代表される日本の性産業の歴史を研究していました。ですが、スウェーデンに留学したときに、そもそも性産業に携わるか否かに関係なく、日本では性の健康が守られていないと感じたんです。実は、スウェーデンは世界で初めて、性を売る側ではなく買う側を罰する刑法を制定した国なんですね。どんな社会的土壌が法律制定につながったのか、などに興味を持ちました。同時に、日本も若い人がSRHRを手に入れられる社会にしたいと、「#なんでないのプロジェクト」をつくりました。
山本:<Voice Up Japan>では今、いくつかの大学で学生支部を立ち上げていて、学内の問題をそれぞれの学校で議論しています。それと並行して、どこからが性暴力で、被害にあったらどうすればいいかがわかるような性暴力ハンドブックをつくり、親子や家族で適切な対応が学べるようにしていきたいんです。性暴力やSRHRについて取り組んでいるさまざまな団体や専門家と協力して進めていきたいと思います。
*SHRH(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)とは、性や子どもを産むことに関わるすべてにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態であり、自分の意思が尊重され、自分の身体に関することを自分自身で決められる権利のこと。
<Women Deliver 2019>への参加を決めた理由は?参加してみて、特に印象に残っていることも聞かせてください。
福田:こうした会議があると知って、行かない理由はないと思いました。日本でも、リプロダクティブ・ヘルス*1については少しずつ聞かれるようになってきましたが、「セクシュアル」の部分は抜け落ちています。奨学金を申請するときも、母子保健なら募集があっても、性に関する健康と権利までは入ってないことが多いんです。でも、世界ではこんなにたくさんの人が性に関する課題に取り組んでいるんだと、改めて実感することができました。
*1:性や子どもを産むことに関わるすべてにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられること
山本:世界中の人とSRHRについて話せる機会なんて貴重ですよね。民族衣装を着て参加している人もそこかしこにいて、目に見えて多様性が感じられました。
今回は150以上の国と地域から8000人くらいの参加者がいたそうです。
山本:分科会はもちろん、展示会のようなブースもたくさんあり、「ソリューションギャラリー」と銘打たれたコーナーでは、各種提案のほかに若者向けゾーンやフィルム・ドキュメンタリーの視聴コーナーなど、さまざまなコンテンツが準備されていたのが印象的でした。各ブースも広くて出展者といろいろな話ができました。あと、コンドームがあらゆるところに置いてありました。
福田:私はできるだけたくさんの分科会に参加するようにしましたが、幅広いテーマをカバーしているのが印象的でした。安全な中絶や子宮頸がんワクチンなどに関するセッションもありましたし、個人的には1日中、ひたすらデータについて議論するセッションがとても勉強になりました。
それはなぜですか?
福田:適切な政策を生み出すためには、裏付けとして信頼できるデータが欠かせません。だからこそ、データの収集・分析をするための投資は欠かせませんし、得られたデータを見やすく加工して提示することで、政策に反映されるというわけです。
福田:ほかにも児童婚や女性性器切除、月経、女性の経済的なエンパワーメントなど、テーマは盛り沢山で、そこにこれだけの資金と人材が投入されていることは衝撃でした。ある分科会にはデンマークのメアリー皇太子妃が出席し、経口避妊薬の費用対効果について話していました。王族の一員が「Sexual」(性についての)という言葉を口にするなんて、すごいことじゃないですか。
たしかに。しかも公の場ですもんね。
福田:有名な国際組織や財団などの人たちが目の前でしゃべっていることにも圧倒されました。国によっては大統領などの国賓が参加しているところもありました。多くの国がSRHRの問題を重視していることがわかりました。
山本:私は教育やイノベーション、経済発展についての議論に関心があったので、「なぜ女の子に教育を与えなくてはならないか」「月経カップがあるだけで女の子の人生がどんなに変化するか」「どうやって各国の主権を脅かさない支援をするか」などの話題を追っていました。
ただ、気になったことは、東アジアからの参加者がほとんど見当たらなかったことです。対照的に、プラン・インターナショナルのような国際NGOは南米からの若い参加者を集めて議論していました。年配の人たちが若い人たちのことを想像して話し合うのではなく、「若い人たちが今を変えるべき」と、若者世代を意思決定の場に積極的に取り込もうとしていたのが印象的でした。
福田さんは「若者の包括的性教育」をテーマにしたセッションで登壇しました。
福田:はい、日本の性教育やSRHRの現状について説明しました。日本の中学校では避妊法については教えないものとされていますし、経口避妊薬に月約2000円から3000円、中絶はおよそ10万円から20万円かかるなど、性教育もSRHRサービスも十分とは言えません。若い女性がトイレで子どもを産んで捨ててしまうなどの事件は、こうしたことが原因で起こるのではないか、もっと世界標準の性教育やSRHRが必要だ、ということを話したんです。
日本の状況を共有したときの参加者の反応はいかがでしたか?
福田:現状の例を一つ語るごとに、参加者の皆さんが驚いているのがわかりました。セッションが終わった後はいろいろな方が声をかけてくれて、名刺交換もたくさんしました。メアリー妃からも、「日本は少子化で困っているのに、女性が本当に輝きやすい社会にしなくてどうするの?」と聞かれました。日本は一見良好な保健指標の裏で、子宮頸がんワクチンの接種率が1%を下回っているという話を聞いて、WHOの人ががく然としていたのも覚えています。
とにかく、日本では国内の現状がおかしいことに気づいている人があまりにも少ない。日本人も日本の現状を英語で伝えられない、こうした会議に参加して発信する人がほとんどいないことが、日本の壁になっていると思います。
山本:日本の若者は大人から「なめられている」とすら感じますね。そもそも、日本のSRHRの状況が国際社会から改善のターゲットとして認識されていません。
福田:<Women Deliver 2019>では、私の隣にも女性性器切除を受けた人や、月経が理由で学校に通えなくなった人などがいました。そうした人と出会って思ったのは、途上国に優先的に資金が割り当てられるのは仕方ないなと。でも、そういうことを知った上で、日本の現状をもっと知ってもらう必要があると思います。そのためにも、日本の現状を実態に基づいた数字で示すことのできる正しいデータを出して、見える化して、発信していく必要があると感じます。
山本:先進国と途上国を分ける線を引くこと自体を見直すべきではないでしょうか。国際的な優先課題はもちろんあると思いますが、先進国でもまだ残っている問題は取り上げていかなければならないと思います。
そのためにも、発信できる人と、発信できるデータが必要ですね。
福田:そうですね。例えば最近、厚生労働省でアフターピルのオンライン処方に関する検討会で議論がありましたが、女性が産婦人科を受診する際のハードルの高さについて、ある医師は「私はそんなことはないと思う」と発言しました。そんな感覚的な議論ではダメですし、そもそも客観的な政策評価が行われていないことが問題です。
カナダでは「ジェンダー・レンズ調査」というものがあって、政策がジェンダーを考慮しているかをチェックするとともに、ジェンダーに配慮された政策は社会にとって経済的な利益があるということをきちんと提示できています。
山本:日本も、数字で表わされた正しいデータに基づいて、国を運営する姿勢が必要だと思います。私は経済学を専攻したので、「あいまいな数値化」で社会や政策を語る現状は問題解決につながらないと感じます。
取材・文:I LADY.編集部
編集:加藤将太
*この記事は2019年5月22日に取材したものです