語る I LADY. 助産師、YouTuberとして、 性の身近な相談相手に

助産師、YouTuberとして、 性の身近な相談相手に

助産師、性教育YouTuber

大貫詩織(シオリーヌ)さん

総合病院産婦人科に勤務した後、現在は学校での性教育に関する講演活動や性の知識を学べるイベントの講師等を務める。性を学ぶオンラインサロン「yottoko labo」運営。YouTubeチャンネルでは、日常生活にいかせる具体的な性の知識を動画で配信中。
https://yottoko.net/

2019年の「小学生のなりたい仕事」ランキングで第3位だったYouTuber。エンターテイメント的なコンテンツが多いなか、YouTubeで「性教育」をテーマに情報発信し、注目を集めているのが助産師の大貫詩織(シオリーヌ)さんです。性教育を題材に動画配信する意義と若者から寄せられる悩みについて伺いました。

01

出産を助ける人=助産師だからこそ、性についての情報発信を

シオリーヌさんが助産師を目指し、性教育の情報発信をするようになった経緯について教えてください。

大学の進路選択の時期に、「家族ってなんだろう」と思うことがありました。ちょうどそのとき、産婦人科の先生が書かれた本と出会って、「赤ちゃんに関わる仕事に就いたら、家族について考えられるんじゃないか」と思い、看護学科に進んだんです。そこで看護師・保健師・助産師の資格3点セットを取得して、大学卒業後は3年間、助産師として産婦人科で働きました。

産婦人科では、予定外の妊娠をして、中絶をする女性たちにも数多く出会いました。そのほとんどは、妊娠するまで自分の体についてきちんとした知識を持っていませんでした。それを見て、「妊娠する前に、自分の体についての情報を伝えなければ」と思うようになったんですね。日本では、助産師はほとんどの女性にとって「妊娠して初めて出会う人」です。でも、助産師だからこそ、妊娠する前から、女性が自分の体について選択するための情報を提供したいと思うようになったのが、性教育を始めるようになったきっかけです。

たしかに、助産師という言葉には、「出産を助ける人」というイメージがありますね。

性教育の仕事をしていると、たいがい「今は助産師の仕事はしていないんですね」と言われます。でも、私は助産師はリプロダクティブ・ヘルス*1の専門家だと考えているからこそ、性教育をやっているつもりです。助産師は「女性の一生に伴走できる仕事」と言われているにもかかわらず、現状では、仕事として成り立つのは「お産を極めるか、授乳を極めるか」の2択になってしまっています。助産師の仕事の幅をもっと広げて、若い人たちから気軽に相談を受けられる仕事にしていきたいと思っています。

*1:性や子どもを産むことに関わるすべてにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられること

02

関心が高い動画コンテンツは「月経カップの使い方」と「コンドームの付け方」

性教育を手掛ける人の中でも、動画配信というのは珍しいですよね。

私も、最初は学校の講演会やイベントなどで性教育の話をすることから始めました。でも、課題だなと思うことがいくつもあって。その一つは、講演やイベントだと一方的に話をするきりで、それ以上のやりとりができないことです。私の話を聞いて何か疑問を持った生徒さんがいても、理解を深めるようなやりとりをする機会がありません。また、学校での講演だと、時には「具体的なことを言わないでください」と依頼されるなど、学校側の裁量で何をどこまで伝えるかが決まってしまいます。

場合によっては、中途半端な情報を伝える形になってしまいますよね。

そのまま放置して逃げているように感じてしまって。具体的な部分も含めて、必要な情報をしっかり伝えられる場所をつくりたいと考えて、まずはTwitterアカウントを開設しました。でも、Twitterのような文章主体のメディアだと大人は読んでくれるけど、若い人にはあまり読んでもらえないので、動画配信を始めることにしました。2019年2月にYouTubeで動画配信を開始して、9カ月経った頃には、約5万人が私のチャンネルに登録してくれています。*2 動画は3日に1本はアップロードするようにしていますね。

*2:2019年10月時点の登録者数

どんな内容が人気ですか?

YouTube動画で再生回数が多いのは、月経カップの使い方と、コンドームの付け方の解説動画です。なかでも月経カップは、実はオンラインでも情報が少なくて、検索するとYouTubeの動画しかありません。私以外にも、月経カップの情報を発信しているYouTuberもいます。また、講演や授業で話すと、子どもたちから具体的なことを聞かれることが多いですね。

例えば、どんなことについて?

「セックスって何?」「どこからが性的接触になるの?」「性感染症はどうするとうつるの?」「妊娠の兆候ってどんなものがあるの?」とかですね。コンドームはどこで買えばいいかを聞かれることもあります。学校の性教育では、コンドームを付けましょうと言うけど、どこで、いくらで買えるかまでは教えてくれないことも多いんです。「コンドームを買うとき、お酒みたいに年齢確認はあるのか、身分証明書や学生証を見せなくてもいいの?」って、大人からすると滑稽かもしれませんが、子どもたちにはものすごく差し迫った疑問なんです。

ジェンダーやセクシュアリティの質問もありますか?

多いですね。「自分の性に違和感がある」とか、「男らしい、女らしい恰好が好きになれない」とか、本人たちが今悩んでいることについての具体的な質問があります。学校での性教育は、オブラートに包まれていて「結局何を伝えたかったのか」がわかりづらいことも多いです。私の話を聞いて、「学校では具体的に教えてくれなかったので、やっと意味がわかりました」というコメントをいただくことがよくあります。

若者以外からの質問もあるのでしょうか。

親御さんからもありますよ。よく尋ねられるのは、「子どもにどうやって性について教えたらいいか」「こんなことを聞かれて困ったけど、どう答えればいいか」といったものです。ワークショップなどでは、どうやって伝えるか、親御さん同士で議論してもらうこともよくあります。親御さんたちも、子どもがネットで情報を得ていて、それがしばしば間違ったものであることはわかっていて。それでも、それに対してどうアプローチすればいいかわからなくて、困っているのだと思います。

たしかに、学校での教育はもちろん、親子の間で性について話すことも、日本では敬遠されがちですね。

私の母はその点とてもオープンな人で、生理用品の使い方や避妊の大切さをきちんと話してくれました。逆に、学校ではどんな性教育を受けたか、記憶にないくらいです。私自身が性教育を始めようと思ったときも、助産師でありながらあまり知識はありませんでした。そこで、日本家族計画協会が認定する思春期保健相談士の資格を取るなどして、懸命に勉強しました。

03

「高校生のとき、そばにいてほしかった大人」でありたい

シオリーヌさんへの質問はどんな形で届くんですか?

LINE@への質問や、YouTubeのコメントが多いですね。匿名で、いつでも、一度だけでも、無料で相談できるというのが質問する側のハードルを下げているかなと思います。

質問のハードルが下がると、批判や嫌がらせも多くなりそうです。

性教育をすることに対する批判はほとんどありませんが、根拠のない個人攻撃やセクハラはものすごく多いです。日本では、性の話が即エロティックと同義であるというイメージが強いので、性について話す女性は性的なターゲットにしていい相手というふうに間違って認識してしまう人が多いのかもしれません。実際に、「ブス!」みたいなコメントで個人攻撃してくるケースは多いですね。

匿名だから、悩みを相談しやすい反面、悪いことも言いやすいですよね。

でも、私にとって「名前を出して、性についての情報を発信しよう」という決断は、人生で一番の決断なんです。性教育に携わろうと思った当時、私は病院勤務の助産師として仕事をしていました。私と同じくらい経験を積んだ助産師さんなら、勤務助産師をしながらでも私と同じようにできるものです。

実は私、高校時代は友人とコンビを組んでアマチュア芸人をやっていたんです。バンド活動もしていたし、大学時代は塾で教えていたから、人前に立つことは得意で、何かを教えることも好きでした。プロのお笑い芸人になるほど口が達者じゃないから、お笑いの道は諦めましたけど、今でも医療関係者の中では弁が立つほうだと思います。

いろいろな分野で、子どもたちの教育やサポートをする人たちがたくさんいますが、効果的に情報発信するために大切なこととは何でしょうか。

情報発信のスキルがなくて、その情報を届けるべき子どもたちに対して発信できていない人が少なくありません。プレゼンの仕方などを覚えるチャンスがなかなかないので、私はオンラインサロンの運営も始めました。そこでは性の情報を発信したい大人を対象に、話し方の練習とか、SNSの活用法などを教えています。せっかく良い情報を持っているのに、伝えるべき人に届かないのが、見ていてとてももどかしくて。

シオリーヌさんは情報発信のための仕組みを次々と形にしていますが、今後のビジョンとしてはどんなことを描いているのでしょうか。

まずは、YouTubeのチャンネル登録者10万人が目標です。YouTubeではどうしても面白い動画を配信する人が多くて、まじめな情報発信系の分野で上位に入れる人がまだ少ないんです。だからこそ、10万人に登録され評価されれば、まじめな発信をする人たちの参考になるんじゃないかと。*3

それから、もっと世界の性教育事情についても学んでいきたいですね。私は子どものとき、周りの大人にたくさん助けてもらいました。だから、私も「自分が高校生のときに、そばにいてほしかった大人」になることを目指しています。私たち看護師・助産師は、先生よりも、高校生以下の子どもにとって身近で話しやすい存在のはず。子どもたちが本音を話せる存在を目指していきます。

*3:2020年2月末にチャンネル登録数10万人を達成

シオリーヌさんのYouTubeチャンネル「【性教育YouTuber】シオリーヌ」はこちら

取材・文:I LADY.編集部
編集:加藤将太

*この記事は2019年10月3日に取材したものです

I LADY. な人たち