印象的だったのは、ピルの月経コントロール、避妊の効果については4-5割が理解しているのですが、33%(10代女性では44.5%)は値段が高いと思っていること。ピルを服用していない理由の1位は「お金がかかる」で、この割合は過去と比較して上昇しています(2021年38%→2023年45%)。2位は「副作用が心配」で、効果については認知が広まってきているものの、事実と異なるネガティブな噂は訂正されていない実態が明らかとなりました。実際には、保険診療で処方されるとジェネリックなら約600円/月、もちろんそれを高いと感じる方もいるかもしれませんが、外来で患者さんにお話しすると「そんなに安いんですか!」と驚かれることが多く、どうやらオンライン処方の広告をみて毎月3000円以上かかると思ってらっしゃるようです。
ピル服用率が20%との結果は、臨床現場の感覚よりも多い印象なので、SRHRをテーマとしたアンケートに回答しようと思う時点でバイアスがかかっている可能性は否めません。それを考慮すると、実際には本結果よりもピルについての認知は低いかもしれません。
また、子宮頸がんはHPVワクチンと子宮頸がん検診で予防することができますが、20代後半の36%は未受診。HPVワクチンは過半数が未接種。特に20代後半の子宮頸がん検診を受けない理由は、「面倒だから」33.5%に続いて2位が「お金がかかるから」31.3%。(※画像は全調査対象:15-29歳の数値を示しています)実際には、自治体から補助がでることが多いのですが、ピルが費用を理由に敬遠されているのと同様、必要な情報が対象者に届いていない可能性がうかがえます。国民の健康に寄与するにためは、制度整備だけでなく正しい情報の普及啓発も不可欠と改めて感じました。
もう一点、非常に印象的だったのは、「避妊せずに性交渉してもし妊娠したらどうするつもりだったか」の回答として、2021年以降「産む/産んでもらうつもりだった」が減少、「中絶するつもりだった」が増加していること。経済的な事情か、心理的な将来への不安か、タイミング的にはコロナ禍以降ですが、果たして本当にコロナ禍が影響しているのか、理由までは本調査からは分かりませんが、子どもをもつことへのハードルが以前よりも上がってきていることがうかがえます。一方で、避妊をせずに性交渉した理由の1位は「大丈夫だと思った」、そのほか「妊娠すると思っていなかった」「なにも考えていなかった」「自分には関係のないことと思った」と、男女ともに妊娠を自分事と捉えられていない人が未だ多い。また、「緊急避妊薬を飲めばいいと思った」が増加傾向となっており、間違った認識で知られるようになってしまっており、性教育の重要性を実感します。
稲葉可奈子
産婦人科専門医・医学博士。京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。産婦人科診療の傍ら、病気の予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシー、育児情報などを、SNS、メディア、企業研修などを通して発信。双子含む四児の母。みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト 代表 / みんリプ!みんなで知ろうSRHR 共同代表 / メディカルフェムテックコンソーシアム 副代表 / フジニュースα・Yahoo!・NewsPicksコメンテーター。
高校生の子ども二人の母。