日本のみならず、海外のファッションイベントにも数多く出演。パリコレのフロントロウの招待も受け、ファッショニスタとしても各国を巡っている。ハイエンドからストリートまで着こなすファッションセンスやライフスタイルが若い世代の女性たちに多くの支持を得ている。
アルゼンチンと日本のミックスであり、そのエキゾチックな容姿で若い女性たちから支持されているモデルの河内セリアさん。雑誌やショーで活躍しながら、プライベートでは世界各地の貧困地域などでチャリティ活動に参加してきました。現地のリアルな現状を目にしてきた彼女だからこそわかる、日本と世界のギャップとは?そして、「自分で決断して行動する」ということを大切に生きるセリアさんが、同世代の人たちに伝えたいメッセージとは?
セリアさんはこれまでにさまざまなチャリティ活動に参加していますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
父の影響がとても大きいと思います。父の母国であるアルゼンチンはチャリティにとても熱心な国なので、教育として、幼い頃から家族と一緒に国内外のいろいろな地域でチャリティ活動に参加してきました。だからチャリティを行うことは、私にとって自然と当たり前のことになっていたんです。
海外でチャリティ活動をしていると、まだチャリティ文化があまり根付いていない日本とのギャップを感じることも多々あるのではないでしょうか?
そうですね。まず日本だと、「チャリティに参加する=いい人」と思われがちですけど、アルゼンチンではチャリティに参加することは当然のことであって、やらなきゃいけないこと。だから、チャリティ活動をすることは特別なことではありません。南米では日本と比べて窃盗やレイプ、貧困問題も多いから、現地の人たちは常に危険な何かが起こるかもしれないという意識で生活しています。だからこそ、助け合うのが当たり前なんです。一方、日本は安全だし本当に住みやすいですよね。平和が普通の環境なので、チャリティという言葉に対する重みが違うのかなと思っています。
日本でチャリティを浸透させるためにはどうしたらよいと思いますか?
日本人が海外で起こるような危険を身近で理解するのはやっぱり難しいことだし、チャリティを必要としている国の現状を知るための情報に触れる機会も少ない。だからこそ、私のように海外に行く機会が多い人たちが、その国の良い面だけではなく、ありのままの現状をSNSからもっと発信して、深刻さや重大さを伝えていくべきなのではないかと思っています。
その意味でも、ジョイセフが支援活動を行なっている国へ、私も途上国や被災地など現地視察に行きたいと考えていて。モデルという仕事は、みんなが「キレイ」「美しい」と感じるものを見せることが仕事だけど、仕事では出会えないヒト、モノ、コトをありのままに発信することで、ファンの人たちの心を動かしたいですし、そこから何かのパワーが生まれてくれれば嬉しいです。
日本とアルゼンチン、2つの国のバックグラウンドを持つセリアさんですが、過去にはそのことで悩んだこともあるそうですね。
良くいえば私には母国が2つあるけど、悪くいえばどちらにも属していない。だから、日本人でもなければアルゼンチン人でもないんだと思うと、すごく寂しさを感じました。それから、「ハーフ」と呼ばれることも嫌だった。そもそも、私は自分のことをハーフだとは思っていないんです。
それはどうして?
アルゼンチンは国民のほとんどが移民なので、父にもドイツやフランスなど、さまざまな国にルーツがあります。だから、「ダブル」や「ミックス」と呼ばれるなら理解できるけど、ハーフは「半分の人間」と言われているような気がして、とても抵抗を感じました。あと、「どこの国とのハーフなの?」と聞かれるたびに、私がどんな人間かよりも、どこの国籍なのかの方が大事なのかなって。そんなふうに自分のアイデンティティにコンプレックスを感じていた頃は、父とケンカが絶えない時期もありましたね。
今でこそ後悔していますが、「普通のお父さんがよかった」なんて酷いことを言ったこともありました。父はとても厳しい人だったから、その厳しさに対しても反抗的になっていたんです。でも、父が私に厳しかったのは、自分が日本に来たばかりの頃、外国人ということでたくさんの苦労をしたから、私には強くあってほしいという気持ちがあってのことだったと今では理解できます。
ご自身のアイデンティティに対する悩みを、どうやって克服したのでしょうか?
それは、このモデルという仕事のおかげです。子どもの頃からずっとモデルの仕事をしていますが、この仕事では国籍とか関係なく、私という人間をモデルとしてのスキルや人間性で認めてくれるんです。学校で周りの人と自分は違うんだと感じることはあっても、仕事の現場でそれを感じることはありませんでした。だから、自分のオアシスみたいに思えてモデルの仕事が大好きになったし、自分のことも認められるようになりました。
2016年、セリアさんには<I LADY. in ふくおか>のトークショーに登壇していただきましたが、その際に「男らしさと女らしさの基準」について学生たちと話していたことが印象に残っています。
女性をリードする亭主関白な人が力強い男性像のイメージで、その男性をしたたかに追いかけて立ててあげるのが理想の女性像。でも、実は女の人が男の人を尻に敷いてるんだよっていう考えを理解するのが、私には難しかったですね。男であっても女であっても、できることとできないことは人それぞれなのに、「何をできるか」や「何をしてあげるか」で、男らしさと女らしさにつながるというのが不思議でした。
その点はアルゼンチンではどうなのでしょうか?
アルゼンチンでは男か女かは関係なく、その人個人の能力でできることを判断します。例えば日本では、「男だから重たい荷物を持ってあげる」という感覚なんでしょうけど、アルゼンチンでは「僕のほうが重いものを持てるから持ってあげる」という感覚です。もし女性のほうが体力があれば、女性が男性の荷物を持ってあげればいい。だからそもそも、お互いをケアするのに何が男らしいか女らしいかなんて関係ないんですよね。
セリアさんのSNSには、若い女性たちから毎日たくさんの悩み相談のメッセージが届くそうですが、例えばどんな内容なのですか?
仕事、人間関係、恋愛と本当にいろいろあります。その多くに共通しているのは、みんな自分のことをあまり理解していないんじゃないかなということ。例えば、「このとき、私はどうするべきでしたか?」と聞かれることがあるんですけど、それって自分のことを本当にわかっていれば悩むことはないと思うんです。だって、自分がどんな人間かを知っていれば、この選択をしたらこんな感情になるだろうなってことが想像できますよね。
でも、人からどう思われるかを気にしてしまうから、本当の自分の気持ちがわからなくなってしまう。だから、みんな自分で解決できなくて、第三者に答えを求める。だけど、相談された第三者もその人のことはわかりませんよね。だから私も、「じゃあ、あなたはこうするべきだった」ということは言いません。その代わりにヒントとして、「私だったらこうしたと思う。でも、あなたが意志を持って決めたことなら、どんな選択でも間違いではないんだよ」というメッセージを伝えるようにしています。
そのメッセージは、I LADY.が掲げる「Act Yourself」(自分から行動できること)と「Decide Yourself」(自分らしい人生を自分で決められること)にも通じます。
ファンの人たちにも、自分で決断して行動することの大切さを知ってもらいたいですね。小さなことでも大きなことでも、人生ではたくさんの場面で「選択」に迫られます。そこで悩んだり後悔したりしないためには、やっぱり自分自身を知ることがまずは必要だと思うんです。私は昔から父に、「自分の本質を説明して理解してもらえるような人生を送りなさい」と教えられてきました。学歴や地位、所有物なんかで自分を語るのではなく、「自分はこういうふうに生きてきたから、こういう人間なんだ」と。
自分を理解していれば、自ずと自分が選択して行動すべきこともわかってくるし、自分のことももっと愛せるようになる。だから、父のこの教えはI LADY.が掲げる「Love Yourself」(=自分を大切にすること)にもつながることなんですよね。
取材・文:君島 友喜
編集:加藤 将太
*この記事は2017年7月20日に取材したものです