語る I LADY. 歳をとるのは怖くないこと 50代の今のほうがもっと楽しい

歳をとるのは怖くないこと 50代の今のほうがもっと楽しい

FCAジャパン株式会社 マーケティング本部長

ティツィアナ・アランプレセさん

イタリア・ナポリ東洋大学で日本政治文化経済学を学んだ後、奨学生として来日し、九州大学大学院を卒業。フィアットグループで顧客サービス、IT活用を含む様々なマーケティングやCRM部門、<フィアット>と<アバルト>の日本カントリーマネージャーなどを歴任。2010年には、イタリアと日本の交流や発展に寄与したとして、イタリア大統領から「イタリア共和国功労勲章」を受章した。

<アルファ ロメオ><フィアット><アバルト><ジープ>の4ブランドを有する自動車インポーター、FCAジャパン株式会社のマーケティング本部長であるティツィアナ・アランプレセさん。<フィアット>では、すべての女性にエールを送るプログラム「#ciaoDonna」を展開し、女性がより豊かな時間を過ごせるよう、記事やイベントなど多彩なカタチで情報発信しています。同時にさまざまなNPOおよび非営利団体の活動をサポート。自動車業界の枠を超えて大きな影響を与えている、そのエネルギーの源とは?

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自分と周りが変われば、大きなムーブメントが生まれる

ティツィアナさんはI LADY.以外にも、多くのNPOや非営利団体をサポートしていますが、その行動の動機はどのようなものだったのでしょうか。

私はフェミニストとして、学生時代からフェミニズム運動に関心を持ち、活動してきました。当時はイタリアもまだまだカトリックの影響を受けた非常に保守的な価値観に支配されていて、世の中に女性が出ていくのはとても難しい時代でした。そんな中、デモンストレーションに参加し、世界でも新しい試みに関わっていきました。もともとは、イギリスやアメリカで始まった運動でしたが、ヨーロッパでも次第に大きなムーブメントとなっていきました。この活動への参加を通じて気づいたことがあるんです。

どんな発見があったのですか。

女性一人ひとりの力はとても小さいのですが、グループとなりまとまれば、力を持つことができるということです。そして、女性はグループ内でサポートし合うことがとても上手な生き物であるということも。当然ながら、人間はいろいろなコミュニティに属しています。しかし、個々のコミュニティの中でできることは限られています。だからこそ、コミュニティ同士がサポートし合って生きていかなければならないのです。

そんな哲学から、<フィアット>は「Share with FIAT」という合言葉のもと、女性のエンパワーメントをはじめ、子どもたちの人権保護、動物愛護などの団体をサポートしています。この活動を通じて、人と人の想いをつなぎ、自分の幸せだけではなく、みんなで幸せになれる時代をつくっていきたいと思っています。また、この思いをマーケティングの一活動として位置付けています。

ティツィアナさんが考えるマーケティングについて、詳しくお話を聞かせてください。

自分たちの生産したものにある特定のイメージをつけて販売するのが、一般的なマーケティングです。でも、私が考えるマーケティングは、コミュニケーション重視。人が車を選ぶとき、予算やデザインで選んだりと、基準は人それぞれです。特に日本車を筆頭に、今は安くて見た目もいい車がたくさんあります。その観点からすれば、輸入車である私たちは負けているかもしれません。だから、ここに私たちは「LOVE」をプラスし、他と違う伝え方をしようとしています。

どうやってFCAジャパンの各ブランドから「LOVE」を伝えているのですか。

私たちのシェアしてサポートし合うという思いと呼応したコミュニティを支援し、その活動から「LOVE」を感じ取ってもらい、その上で私たちの車を選んでほしいと考えています。どちらかがどちらかにギブする関係性ではなく、ギブ・アンド・テイクの関係性を培っていく。それが私が考えている「LOVE」です。この関係性を培っていくことが、この世の中を動かす上ではとても重要なのです。

「Share with FIAT」のコンセプトも同じです。<フィアット>がサポートしている団体と一緒にプロジェクトを計画し、ブランドの力を活かすことで、その団体をお客様に広めるという活動を行なっています。

日本はまだまだ寄付文化やチャリティ文化が未成熟だとされていますが、このような取り組みが増えることで変わっていくと思いますか?

多くの場合、日本では寄付しただけで終わってしまいます。「Share with FIAT」の話とつながりますが、FCAジャパンでは、寄付をしたらそのままではなく、共に助け合い、つくり上げていくCSV活動を行なっています。「Creating Shared Value」、日本語に置き換えると、社会と共有できる価値を創造するという意味です。世の中を変えていくにはひとりの力では無理です。まずは自分が変わり、そして周りが変わり、それによって大きなムーブメントを志すことができる。これは私が何度も経験してきたことです。

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フェミニストのイメージを変えるのは、家庭の教育から

「私はフェミニストです」とおっしゃっていましたが、日本ではフェミニストというとマイナスイメージを持たれてしまうことも多く、なかなか運動が活発化していない現状があります。どうすれば打破できると思いますか?

それは日本だけではありません。フェミニストというと、世界中のどこにでもネガティブなイメージが未だにあります。これはマスメディアにつくり上げられたイメージだと思います。そこに気づいた人たちがマスメディアの人間になって直接的に変えていくという方法もあります。しかし、みんながその方法をとることは難しいですよね。

だからこそ、先ほどもお話ししたように、大きなムーブメントを起こすには、まずは自分から変わり、そして身近なところから影響を与えて動いていく必要があります。最も重要なのは、家庭の教育にある、と私は思っています。

家庭の教育、ですか。

特に男の子の教育ですね。幼い頃から男性と女性はサポートし合うべきだとしっかり教育することで、男の子たちは社会に出ても、学校でも、その考えを守り続けていくでしょう。一方、家族の中で母親や妻とうまくやっていけていない男性は、社会の中で女性に攻撃的になりがちのようですね。実は、男性もかわいそうなのかもしれません。一日中仕事ばかりして、お金は妻にコントロールされ、子どもと一緒に過ごす時間もない。「亭主元気で留守がいい」という言葉がありますが、これはちょっとひどいですね。

たしかに。男性だって、もっと家族と一緒にいたいでしょうし。

それが可能になる環境をつくることができれば、日本の男性ももっと幸せになれるのではないでしょうか。男性にも幸せになってもらうのが、フェミニズムの意図なのです。女性にも男性にも同等のチャンスが得られる世界を目指すのが、真のフェミニズムだと私は考えます。

03

若い頃よりも、50代の今のほうがもっと楽しい

日本の社会で男性と同じように女性が活躍し続けるために必要なものは何なのでしょうか。

自身の夢や目標を諦めないこと。もちろん、女性に対する職場環境の厳しさなどがあり、個人の努力だけでは改善できない面もありますが、できる限りの努力はした方が良いと思います。
そして私が強く思うのは、男性と同じようになろうと考えないこと。女性が世の中で認められるには、男性と張り合うことではなく、女性ならではの柔軟さを活かして仕事に取り組むべきだと思っています。

女性が男性のマネをすることで、何かしらの弊害が起こると思いますか?

はい。残念なことに、女性自身が自らフェミニストへの誤解を招いているという一面があります。たとえば、努力することなく男性と同等の権利やチャンスを得ようとしたり、また攻撃的な方法で仕事を進めていったり。こういった行動はフェミニズム運動の妨げになりかねません。当然のことですが、女性と男性とでは生物学的に違いがあります。でも、そこを否定していては真のフェミニズムは実現しません。

では、真のフェミニズムを実現するためには何が必要なのでしょうか。

男性、女性、それ以前に、すべての人たちの個性を大事にし、尊敬し合いサポートしていく。これが成熟した社会に必要なことだと思います。だからこそ、私は女性に対してお願いしたいことがあります。それは「もっとLGBTのサポートをしませんか?」ということです。同等のチャンスを社会から得られないという点では同じ苦しみを持つ仲間なのですから、助け合うことが必要なのです。

最後に日本の若い女性に向けて、メッセージをいただけますか?

私は今50代です。10代、20代のうちは自分のためだけに闘っていました。しかし、年齢を重ねるごとに視野は広くなり、また力もついてきて、より大きな闘いに挑むことができるようになっていきました。女性は特に年齢によって変わる生き物だと私は思います。当然ながら、するべきことや、やりたいことは年代によって変化します。今の自分がどのような年代なのかをちゃんと見極め、その年代に合ったやりたいこと、やるべきことを精査してください。

私は今の自分に必要でないと感じたことは一切やりません。そうやって自分をコントロールすれば、忙しすぎてショートしてしまうこともないのです。ただし、30代、40代は女性にとって特別な期間です。仕事を頑張りたい、でも家族もつくりたいと思うならば、そのためのタスク量が多く、とてもストレスフルな時期です。この時期は特に、自分のやるべきことを熟慮することが重要になってきます。若い頃ももちろん楽しかったですが、私は今のほうがもっと楽しいです。なので、歳をとるのを恐れず、むしろ楽しみにしてくださいね。

取材・文:吉田奈美
編集:加藤将太

*この記事は2017年7月14日に取材したものです

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