ジョイセフの海外プロジェクトでは、若者がSRHR(性と生殖に関する健康と権利)を推進していけるよう、自らSRHRを実践しながら同世代の仲間に伝えていく「ピア・エデュケーター」を養成してきました。その経験を日本でも活かし、多くの若いアクティビスト「I LADY.ピア・アクティビスト」が誕生しています。
2022年は東京・文京区との連携プロジェクトとして、学生を中心とする志望者がピア・アクティビスト研修を受け、ジョイセフのサポートを受けながら活動をスタート。そして10月12日、経験豊富なケニアのアクティビスト「ピア・エデュケーター」たちとZoomでつながるオンラインセッションが開催されました。
自分たちの好事例や課題を英語で紹介しながら、交流を深める日本とケニアのアクティビストたち。気づきや学びを得るとともに、国境を越えてつながり合えることを実感し、モチベーションが上がる実り多い時間になりました。
Zoomで開催されたセッションに参加したのは、日本から7名、ケニアからも7名でした。
参加した日本の「I LADY.ピア・アクティビスト」は、東京・文京区の連携協力で実施したジョイセフの研修を受け、2022年7月から活動を始めたばかり。一方、ケニアで活躍している「ピア・エデュケーター」(ケニアピア)は、活動歴が2~7年にも及ぶベテランが揃っています。
「ケニアの事例や工夫から学びたい」「ユースが担う重要な役割を知りたい」と意気込む日本のピアたち。ケニアのピアも「自分たちの活動を共有して、ノウハウを役立ててもらえれば」と、張り切ってセッションに臨みました。
【ケニアの若者アクティビスト「ピア・エデュケーター」とは?】
同じユース世代に性や保健の知識を伝え、生理用品や避妊具を配付したり家族計画について教えたりする若者アクティビスト「ピア・エデュケーター」。特にスラム街で暮らす少年・少女たちにとって頼りになる存在です。彼らは地域でSRHRを推進するために若者が参加しやすいさまざまな企画を立ち上げ、積極的にSRHRの啓発教育活動を広げてきました。
【日本の若者アクティビスト「I LADY. ピア・アクティビストとは?)】
ジョイセフは、国際協力で培った「人づくり」の経験と知見を活かして、特に日本の若い世代を対象とするプロジェクト「I LADY.」を2016年にスタート。SRHRに関する最新の動きや国際スタンダードな情報を幅広く提供するとともに、SRHRを推進する「I LADY. ピア・アクティビスト」(ピア)の養成を行っています。ピアたちはジョイセフの研修で学び、サポートを受けながら、積極的にSRHRの啓発活動をしています。
今回参加した日本のピアは学生が多く、自分が通う大学やその附属高校、公共施設などでSRHRの啓発活動を展開しています。セッション前半では、それぞれのチームが日本で実施した取り組みや今後の計画について、英語でプレゼンテーションを行いました。
大学院生であり、助産師でもあるメンバーで構成されているこのチームは、お茶の水女子大学附属高校で出張授業を行った経験をシェアしました。
「自分や相手を大切にしながら、性的なパートナーシップをどのように育んでいくのか?」
「 月経の時期を快適に過ごすためには、どのような方法やアイテムがあるのか?」
「多様なジェンダーがあり、一人ひとりが違う。自分のジェンダーアイデンティティを知り、自分も他者も尊重するためには何ができる?」
このようなSRHRのテーマについて、ジョイセフが教材として開発した多様な選択肢のカードを並べ、その中から高校生たちに「自分で考えて選ぶ」体験をしてもらいます。
参加した生徒からは「このような問題を深く考える機会はあまりなかった。しっかり考えることが大切だと思った」という感想が寄せられました。性の問題から目をそらさず、「自分のこと」として向き合うワークは、参加者に新しい気づきをもたらしたようです。
留学生が多い同大学は、多様なバックグラウンドを持つ学生がコミュニケーションできるよう、先進的なプラットフォームを整備しています。その特性を活かし、このチームは大学の英語サイトやVR空間を使ったワークショップを実施予定でした。
タイトルは「Sexual violence, gender and diverse sexuality」です。仮想空間での先進的な試みを聞いて、他のピアたちも刺激を受けている様子でした。
このチームは、ちょうど学園祭でワークショップを開催するための準備を進めており、企画内容や制作したポスターについて発表しました。
ワークショップのタイトルは、I LADY.ピア・アクティビストと考える「私とパートナーを大切にするとは?」。自分とパートナーの双方にとって大切な「性と体に関する知識」を得て、パートナーシップの中でどのように自分らしい人生を選び取っていくのか、その「選択肢」について考える興味深い企画です。
2022年8月、文京区でさまざまなリボン活動を紹介した「カラーリボンフェスタ」に参加し、チームとしてジェンダーとSOGI(性的志向・性自認)に関する展示を行いました。来場者から「最近娘が男になりたいと言うの」という現実的な相談も受けたそうです。
11月にはチームメンバーが通う東洋学園大学で、ジェンダーに基づく差別をテーマにセッションを行う予定があり、その計画内容もケニアのメンバーにシェアしました。
日本の各チームによる活動のプレゼンテーションを興味深く聞いたケニアのピアたちからは、「このプロジェクトの持続可能性は?」「学業とどのように両立しているの?」など、ベテランならではの先を見据えた質問が多く出ました。
日本のメンバーたちは、まだ活動をスタートさせたばかり。経験豊かなケニアチームと意見交換することで、どのように息長く取り組みを続けていくか、今後に向けて考えを深めるきっかけになったようです。
この日のセッションの準備として、日本チームはケニアチームによるプレゼンテーションをビデオで視聴し、好事例や課題についてあらかじめ学んでいました。
プレゼンテーションをまとめてくれたのは、ピア歴4年のピーター・シタブレ・サイモンさんです。彼はケニア最大のスラム「キベラスラム」を中心に活動し、若者のロールモデルとなるべくSRHR推進やアドボカシーに取り組んでいます。
「私は若者のSRHRへの意識向上に取り組んでいます。ケニアではSRHRに関する知識や取り組みが足りません。私はピアの研修を受けて理解を深め、SRHRやジェンダー権利の大切さについて確信しました」(サイモンさん)
ケニアのピアたちは新型コロナがまん延する中で消毒方法を地域に広め、マスクや生理用品を支援団体と協力して調達・配付したり、脆弱な立場の人々を支えるために尽力してきました。
支援や啓発活動の中でも「楽しさ」を大切にするのがケニア流です。SRHRを題材とするゴスペルを一緒に歌ったり、ジェンダーに関する映画を上映したり、若者たちが楽しみながらSRHRへの意識を持てるように工夫しています。
キベラのような巨大スラム街では、無秩序に捨てられ腐敗したごみや家々の間を流れる汚水など、不衛生な状況下で多くの人が感染症にかかります。サイモンさんたちピアのグループは、人々が健康に過ごせるよう、スラムの道をきれいにする清掃活動に取り組んでいます。
キベラには生理用品を買うために性産業に身を置く少女たちがいて、性感染症や若年妊娠・学校中退につながっています。この現状を改善したいと、ピアのグループは、少女たちに生理用品を無料で配るプロジェクトを立ち上げました。
「有志を募ってSNSで資金を集め、これまで3000人に及ぶ少女たちに生理用品を配付できました」と胸を張るサイモンさん。生理用ナプキンを配りながら、健康や性、月経などに関する正しい知識を伝えているそうです。
スラムに住む若者たちは、医療施設のスタッフから偏見・差別の目で見られたり、批判されるのを恐れ、保健医療スタッフに相談したり、避妊などのサービスを受けに行くのをためらうそうです。そこでサイモンさんたちは医療施設に働きかけ、若者たちを温かく迎えるように促しました。学校や教会にも協力を呼びかけて若者へのSRHR啓発・教育の大切さを理解してもらい、こうした場所で数多くのSRHRセッションが実現したと言います。
「活動を始める前に、コミュニティをよく見て分析します。誰が協力してくれるか、どのように人を集めて効果的に働きかけるか、注意深く計画するのです。SRHRの課題について地域の人々と話し合いますが、人間同士尊重し合って進めることが大事です。価値観や宗教、ジェンダーは人それぞれであることを意識しながら、SRHRを広めていきます」
サイモンさんたちの活動はコミュニティだけにとどまりません。若者の声を国レベルの政策決定に反映させようと、「アドボカシー」にも積極的に取り組んでいます。
「リプロダクティブ・ヘルスの政策立案に関われるよう、私もイベントに参加したり、コミュニティの若者の声を届ける努力をしています。ケニアでは徐々にSRHの法整備を進めており、とても喜ばしい成果が出ています。日本の皆さんも是非やってみてください」
実はこのケニアとのセッションのタイミングで、日本でも若者がアドボカシーに参加できるチャンスがありました。
10月25日、緊急避妊薬のOTC化(オーバー・ザ・カウンター:医師による処方箋がなくても、薬局やドラッグストアのカウンターで購入可能にすること)、選択的夫婦別姓制度、包括的性教育の導入などについて、各省庁の関係者・国会議員・30歳以下のユース世代が意見交換を行うイベントが予定されていたのです。
「現実を変えるのは、誰かではなく私たちだ」という気づきと励ましを、ケニアのピアが日本のピアたちに与えてくれました。
プレゼンを視聴した日本のピアたちは、ケニアのメンバーに次々と質問をしていきます。
「なぜピアになったのですか?」「協力してもらうためにはどうやって説得するの?」「ピアの活動で人々はどのように変わりましたか?」「話しやすい環境づくりのために何ができる?」
ケニアのメンバーからは、「困っている人の力になりたくてピアになりました」「まず信頼関係を築いて、同じメッセージを繰り返し伝えていくことが大事」「一定の人数にメッセージを伝えると、コミュニティ全体に情報が広がっていきます」「議論する時は、最初にお互いを尊重するルール設定を。安心して話し合える工夫をするとうまくいきます」など、長年の経験で培われた説得力のある回答とアドバイスがありました。ケニアのメンバーも自分たちの経験が役立つのを実感できたようで、とてもうれしそうでした。
参加したメンバーから異口同音に寄せられたのは、「これからも海外ピアと一緒に、いろいろな企画をやってみたい!」という希望でした。今後、海外と日本のピアの交流をよりいっそう増やし、さまざまなコラボレーションを行っていく予定です。