ILADY


2016年末、ジョイセフが行っているI LADY. キャンペーンがSNS上で炎上しました。動画に関する意見と、「新・女子力テスト」と題して使用したデータに関してでした。とりわけ、データに関しては専門家からも指摘を受けました。そのテストの中で、ジョイセフは、もっと日本でもセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)に関する正しい知識を普及する必要があることを訴える際に、「日本人の妊娠・出産知識レベルは先進国で最下位レベル(トルコに次いで下から2番目)」というデータを使ったためでした。そのデータは「Human Reproduction」という英国のカーディフ大学の研究グループが実施した国際調査から引用したものです。

この調査は2009-2010年に行われたもので、日本では、研究グループの代表者が国会議員やマスメディア相手に講演したり (2011年2月)、NHKスペシャル「産みたいのに産めない ~卵子老化の衝撃~」(2012年6月) に出演するなど、大きく取り上げられてきました。ただし、社会学や社会調査の専門家の間ではすでに、この調査は、各国で調査手法や質問内容が異なるために国際比較はできないようなものだとされていました。にもかかわらず、日本政府の少子化対策にまで利用されようとしていると問題提起がされていたものです。問題のあるデータだとは全く気付かずに、ジョイセフはそれを根拠のあるデータと思い込み、I LADY.キャンペーンの中で使用していました。
 
ジョイセフに対し、オンライン上、特にSNS/ツイッター上で多くの批判と波紋を呼び、専門家からの指摘もありました。その最中、ジョイセフに温かく、助言をくださったお一人、明治学院大学の柘植あづみ先生にお願いして、データの何が間違っていたのか、どうすれば情報のリテラシーを高められるかについて、お話を聞く機会をいただきました。ジョイセフスタッフ一同、キャンペーンの企画運営担当だけでなく、I LADY.アクティビストとともに学びの場にしようと、勉強会「I LADY. Lounge」を、2017年10月26日に開催しました。以下、お話の要旨です。

 

登壇者:明治学院大学社会学部教授 柘植あづみ氏

「常識」「権威」を疑え

私たちはとかく、「政府が使用している」、「文部科学省が推薦している」、「産婦人科医が提供した」、「海外の有名大学の研究」、「新聞が」などの肩書付きの情報に対して疑いを持たない傾向にあります。しかし、それらの「権威」に対して無条件に信用するのではなく、まず疑ってみることがリテラシーを高める方法です。

例えば、文部科学省が発行した高校保健・副教材『健康な生活を送るために』(平成27年度版)で使われた「妊娠しやすさと年齢」のグラフでは、22歳をピークに妊娠する力が20代から30代を通して急激に下がっていました。これに「文部科学省が出した数値だから」と疑問を持たない人ばかりでは、今回の「事件」は見過ごされていたでしょう。でも、私たちの会のメンバー数人は、このグラフに疑問を持ちました。調べてみたところ、実際の引用元のグラフのピークは22歳ではなく、また傾きも違っていました。30代前半までは急にではなく、緩やかに低下していたのです。インターネットのSNSで話題になっているという報道を受け、文部科学省は後日、正誤表を出しました。しかし、その正誤表のグラフも、引用元のグラフが2つの別の国の数十年前の調査結果を仮に合わせてみたもので、「妊娠しやすさ」を示したものではなかったのです。このようなデータを副教材として子どもたちに伝えたのは、その意図が透けて見えるのではないでしょうか。この教材から、やっぱり早く産まなければというプレッシャーを受けた子どももいたのではないでしょうか。

 

日本人の妊娠・出産知識レベルは国際的にみて低い?

(ジョイセフがI LADY.で使用して指摘を受けた)「日本人の妊娠・出産知識レベルは国際的にみて低い」という分析は、イギリスのカーディフ大学が分析したデータで、日本政府が使用しているものでした。そのデータをよくみると、日本は先進国で最低、その他の国を含めても、トルコの次に低いという結果でした。しかもトルコと日本だけが男性より女性の知識が低い、となっています。その後の調査により、この分析結果は国際比較としては適切でない調査方法に基づいていることがわかりました。データ収集の際の、各国での調査対象、質問の内容や順番も違っていたのです。

 

 

調査の専門家ではなくとも、気付くことはある

妊娠の知識が女性よりも男性が高いという調査結果は、誰が見ても疑問に思います。しかも、それがトルコと日本だけ男性の方が高い、となればなおさらです。疑問を持ち、調べ、考え、議論することが大切です。誰がどんな意図でこの情報を出しているのか、情報発信側は信憑性の低いデータを疑いもなく使用せず、自分たちの発信する情報の影響力を考え、言葉やデータに慎重にならなければなりません。

また、調査の専門家にしかわからないこともあります。そのために、常にチームに考え方や視点の違うメンバーを入れておく、違う分野の専門家に意見を聞く、ということも重要です。情報発信する側には正しい情報を精査し発信する責任があり、情報を受け取る側も、問題意識を持って情報を読み取る必要があります。そのためには、少数データを切り捨てないとか、属性が違う人、考え方が違う人の意見を大切にすることが重要です。
 
柘植先生の講義を受け、ジョイセフ、そしてI LADY.アクティビストも、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツを若い世代に伝えるメッセンジャーとして、情報収集のリテラシーを高め、正しい情報を広めキャンペーンをより発展させていかなければならないと思いを新たにしました。