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1今、不妊に悩むカップルが増えています。2015年の調査では、日本の平均初婚年齢は女性29.4歳、男性31.1歳(※1)となりました。それに伴い第一子の平均出産年齢が30.7歳(※2)と上がっており、妊娠のタイミングが遅くなっていることも背景にあるでしょう。「不妊」というと、妊娠するのは女性だからか「女性の問題」だととらえている人も多いようですが、実は不妊の原因の約半数は男性に関係することが分かっています。

不妊に悩むカップルの約半数が男性不妊

世界保健機関(WHO)によると、不妊の原因の約65%は女性に関係しているとのこと。一方で男性が関係している場合は約48%、つまり不妊の原因の約半数は「男性不妊」ということになります。(※3)
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調査はWHOにより、7273組の不妊カップルに行われた。
Kubo, H. 2009, Epidemiology of Infertility and Recurrent Pregnancy Loss in Society with Fewer Children, JMAJ, Vol. 52, No. 1
出典:日本医師会:https://www.med.or.jp/english/journal/pdf/2009_01/023_028.pdf

では、男性に起因する不妊には一体どういうものがあるのでしょうか? 大きく分けると次の2つになります。

  1. 勃起や射精に障害がある場合→前編で紹介
  2. 精子に異常がある場合(数、動き、形など)→後編で紹介

今回は1の症状への対処法をお伝えします。

日本男性の5人に1人が勃起障害!?

21998年に全国で行われた調査によると、30~79歳の勃起障害の患者数は約1130万人にもなると推定されています。(※4)調査から約20年経った今、高齢化社会に伴い患者数はさらに増えたと考えられ、現在は日本男性の約5人に1人が勃起障害だといわれています。

獨協医科大学越谷病院の泌尿器科医、小堀善友先生によると、20年前にED治療薬のバイアグラなどが入手しやすくなったことで多くの患者が救われたとのこと。これは「PDE阻害薬」の一種で、陰茎の血管を広げることで勃起しやすくするそう。他にも種類があるので、お医者さんと相談して処方してもらうことも可能です。このように薬の服用で解決できるケースもある一方で、心理的な要因が引き金となり、勃起障害に陥る男性も多くいます。

【症例1】セックスがプレッシャーで勃起障害に!?

妊娠を確実にするために「今日は排卵日だから」と性交日を指定する、タイミング法があります。一見確実だと思えるこの方法には、実は落とし穴が。この時、男性は「今日のセックスで妊娠させなければならない」と義務感を覚え、勃起できなくなることがあるそう。日本生殖医学会にて発表された調査によると、不妊を理由にタイミング法を始めた男性の35%が勃起障害、ないしは射精障害を起こしたそうです。(※5)なぜそのような障害が生まれるのでしょうか?

小堀先生によると、男性が勃起するには興奮ではなくリラックスした状態が必要だそう。私たちが身体を休める時、副交感神経が優位になることでリラックスできますが、男性はこの状態になれて初めて勃起できるのです。よって「妊娠しなければならない」という義務感・責任感を持って性交に向かうと、身体が反応しないことがあるとか。妻とセックスをすると約束した結果、それがプレッシャーとなりセックスできなくなってしまう…それは決して妻を愛していないからではなく、男性の身体の仕組みとしてやむを得ないこともあるのです。

なお興味深いことに、射精するためには副交感神経とは反対の交感神経が優位になり、興奮状態になる必要があるそうです。男性の勃起、射精の仕組みは本当に繊細で複雑なものともいえます。

【対処法1】排卵日にこだわり過ぎない

一番の対処法は、タイミング法にこだわり過ぎないことです。平均月4回セックスをしていた夫婦が、タイミング法で日にちを限定したために月2回に減った、という例もあるといいます。「タイミング法をやめた瞬間に妊娠した」という話を聞くのもそういう理由なのかもしれません。さりげなく排卵日を含めながらも、セックスのペースを保つという方法もあります。

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イケなくなったのはなぜ!? 射精障害とは

射精障害とは、膣内で射精ができない状態です。中でも日本人は遅漏(ちろう)という、射精に至るまでの時間が長すぎる症例が海外に比べて多いようです。「マスターベーションならできるのに」という患者さんも多くいますが、そこには日本特有の性習慣が隠れていました。射精障害の要因を大きく分けると、「誤ったマスターベーション」と「気持ち」の問題の2つになります。

【症例2】誤ったマスターベーションで射精障害に

女性の中では射精できない。でも、マスターベーションなら射精できる…そんな症例もあります。これを膣内射精障害と呼び、小堀先生の病院へ訪れた射精障害を訴える患者さんの77%がこの症状に悩んでいるそうです。(※6)

その原因のひとつとして考えられるのが、床で行うマスターベーション、通称「床オナ」。これは床に陰部をこすりつけ、圧迫する方法です。女性の中で締め付けられる感覚とは異なる強い刺激に慣れてしまい、膣内で快感が得られなくなってしまいます。小堀先生は畳で寝転がる日本人の習慣が「床オナ」につながったのでは、と考えているそうです。

【対処法2】性器具を用いて、本番に近い刺激に慣れる

対処法は、セックスの刺激に近い正しいマスターベーションをすることです。小堀先生のおすすめはTENGAを用いた射精リハビリ。TENGAとは、柔らかく湿った空間で男性器を締め付ける器具です。膣に近い環境で射精する訓練になるそうです。
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(C)TENGA

次に「気持ち」、つまり心理的な要因による射精障害をご紹介します。気持ちの問題にはパートナーの協力が欠かせません。小堀先生が実際に診察したことのある症例から対処法を聞いてみました。

【症例3】ビデオの見過ぎで生身の女性に興奮できない

アダルトビデオの見過ぎで、生身の女性の中で射精できないという症例があります。特殊な状態でないと性的刺激が足りないためです。男性が自分の嗜好を正直に話し、2人で対策を考えることが必要になります。

【対処法3】相手の性的嗜好に合わせる

あるカップルは旦那さんのコスプレ好きを利用し、奥さんがコスプレをすることで症状を改善したそうです。

【症例4】奥さんの前で射精できない

ひとりでないと射精できないというケースです。人前で性器を見せる恥じらいからセックスがうまくできない状態です。

【対処法4】恥じらいは、2人で慣れていく

先生によると、対処法はカップルで協力して慣れることだそうです。まず旦那さんに、奥さんが隣室にいる状態でマスターベーションをしてもらいます。次は同室で射精してもらいます。このように徐々に慣らすことで、膣内で出せるようにしていくそうです。

上記のように、カップルによって症例も対処法も様々です。また、方法はこれだけに限りません。例えば膣内で射精できなくても、マスターベーションができれば精液が得られます。よってその精液を子宮に注入する人工授精で、妊娠を目指す方法もあるそうです。

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セックスをもっと学べる社会へ

ここまでの例をみると、知識さえあれば防げる症状は多いことが分かります。逆に、知識不足がセックスに対する苦手意識をつくり、不妊の原因になることもあるのです。例えば正しいマスターベーションの方法をどこかで学ぶことができれば、射精障害に悩む男性を減らせるでしょう。ビデオやマンガだけでなく、公の場でもセックスについて正しく学ぶ機会を増やすことで、もっと幸福なセックスが増え、結果的により良い夫婦生活、夫婦関係につながるかもしれません。セックスはプライベートなものですが、信頼できる相談窓口もあります。自分たちに合った解決策を知るために、泌尿器科に相談に行ってみるのもひとつの有効な手段なのです。

このコラムの目的は、まだ広く一般的に知られておらず、かつ課題の大きい男性不妊の実態をなるべく多くの方に知ってもらうこと。後編でも、さらなる知識をご紹介できればと思います。



本記事は、泌尿器科医 小堀善友先生へのインタビューを参考にしています。 学術的な指摘や実際の診断に基づいた対処法についてご指導いただき、ありがとうございました。

【出典】

※1 平成27年人口動態統計月報年計/厚生労働省
※2 同上
※3 Kubo, H. 2009, Epidemiology of Infertility and Recurrent Pregnancy Loss in Society with Fewer Children, JMAJ, Vol.52, No.1
※4 日経ビジネスONLINE、1130万人を悩ます「ED」は“治せる病”だ、2015年 
※5 小堀善友、『泌尿器科医が教える オトコの「性」活習慣病』、中央公論新社、2015年、p.79.
※6 前掲書、pp.99-100.