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今、最も注目を集めている日本の重要課題のひとつが「女性の社会進出」です。結婚をしたら仕事を辞めるのが通常とされていた時代と比べて、「バリキャリ」や「ワーママ」など、働く女性を定義する新しい呼称も増えています。総務省が発表した2012年のデータによると、25~39歳のうち働く女性の割合が過去最高を記録しました(※1)。 賛否はありますが「女性が輝く社会」というキーワードは各メディアで頻出し、働く女性たちは日本経済にとって欠かせない労働力となっています。しかし、社会全体で働く女性の活躍が推進される中、彼女たちは3つのリスクと隣り合わせの状況にあることもまた事実です。そのリスクとは、「婦人科疾患」「不妊」「復職」。この「ふ」から始まる3つキーワードについて考えていきたいと思います。

「ふ」その① 婦人科疾患のリスク:
日本女性の婦人科検診率は先進国で最下位レベル?

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女性の社会進出が進む一方、女性特有の病気にかかる人が年々増えています。ここ50年で乳がんにかかる人が約3倍に増え、亡くなる人は1年間で1万人以上にのぼります(※2)。本来、乳がんは早期発見すれば9割以上が治るとも言われているのです。「もっと早く行っておけばよかった」そう後悔する前に検診を受けておきたいですが、特に忙しく働く日本人女性は、自分の身体のことが二の次になりがちなのではないでしょうか。ただし、女性の社会進出が進んでいる諸外国では、婦人科検診率が日本と比較して圧倒的に高いのです。なんと、乳がん検診率1位のアメリカ、子宮頸がん検診率1位のオランダと比べて、日本の検診率は半分以下というデータがあります。(※3)


 

乳がん検診、子宮頸がん検診の受診率

グラフ1

【乳がん】50~69歳の乳がん検診受診率を比較。スウェーデン2008年、アメリカ2012年、日本・オランダ2013年、イギリス・韓国2014年のデータ
【子宮頸がん】20~69歳の子宮頚がん検診受診率を比較。アメリカ・スウェーデン2012年、日本・オランダ2013年、イギリス・韓国2014年のデータ
出典:OECD Health Statistics 2015 [Accessed on December 15,2015]

 
なぜ日本女性の婦人科検診率はこんなにも低いのでしょうか?日本医療政策機構(HGPI)の調査によると、「自分は健康だから検診に行かない」という人が約半数。さらに20代の約半数が一度も婦人科に行ったことがなく、「検診に行くのが面倒くさい」「病院が苦手」「時間がない」「恥ずかしい」…など理由は様々ですが、婦人科疾患に対する理解の低さが現れていると言えます(※4)

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乳がんと子宮頸がんは、早期発見すれば治癒率が高いと言われています。それにもかかわらず、検診を受けないのはもったいないことです。
検診は、病気でないことを確認するためのものですから、症状の有無に関わらず定期的に受けるようにしましょう。また、月経血やおりものの観察、基礎体温の記録、乳房自己触診など自分でできることを行い、異常があれば早めに病院を受診するようにしましょう。身体からのサインを見逃さないことが病気の早期発見や症状の対処につながります。放置すると病気が進行したり、不妊の一因になったりすることもあるので注意が必要です。

「ふ」その② 不妊のリスク:
子どもが欲しくなったころには、「高齢出産」に?

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20代で積み重ねてきた努力が実り、30代に入ってキャリアに花が咲く。バリバリ働きながら外食やおしゃれも自由に楽しんで…。女性たちが経済的に自立してくると、「結婚」に対する意識も変わってきます。「嫁ぐ(とつぐ)」という古い考えにとらわれず、自立した者同士が「生涯のパートナー」を求める流れもあります。そんな中、初婚年齢の上昇に伴い、ひとり目の子どもを産む年齢も上がっています。ようやく落ち着けるタイミングには30代も半ば~後半に差し掛かることも少なくありません。

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しかしそこで考えたいのが、不妊のリスクです。一年間避妊をせずに夫婦生活を営んでも妊娠しないことを不妊症といいます。避妊法が確立されていない17~20世紀の女性の年齢と出産数の関係をみると、加齢により妊孕力(にんようりょく。妊娠する力)が下がり、35歳以降、特に40歳以降に顕著になることがわかります。(下図)

現代の不妊症の頻度は20代後半では8.9%ですが、30代前半で14.6%、後半だと21.9%で、40代になると28.9%まで増加します。(※5)。医学が発達し、平均寿命が延びてもこの傾向は変わっていません。

今の35歳はまだまだ見た目的には若いですが、35歳以降の出産を高齢出産といい、現在の日本では3人に1人がこれにあたります。この年代では、妊孕力の低下のみならず、合併症妊娠や不育症、胎児異常や周産期死亡率の上昇などのリスクが高まります。また不妊症に対して体外受精などの生殖補助医療が行われていますが、加齢によりこれによる妊娠率も低下してしまいます。


 

女性の年齢による妊孕力の変化

graf2

※Menkenらの報告(Menken J, et al. Age and infertility. Science. 233: 1389-1394, 1986)をもとに17~20世紀における女性の年齢と出産数について代表的なデータを抜粋し作成。年齢の増加に伴い(特に35歳以降)出産数の低下が認められる。

 

妊娠しづらくなる原因は年齢だけではありません。生活習慣やストレスが多い環境なども影響し、太りすぎ・痩せすぎやたばこ・飲酒の習慣なども不妊症につながると言われています。いつか赤ちゃんを産みたいと頭では思っていても、仕事が忙しいと身体に無理をかけてしまいがちです。このような事実を頭に入れ、長期的な計画を立て、かかりつけの婦人科医と相談しながらメンテナンスをしていくことが大切です。

「ふ」その③ 復職のリスク:
育児と仕事、どっちも楽しんじゃダメですか?

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無事に出産が叶ったとしても、子育てと仕事を両立できる環境に恵まれず、結局、育児のために退職する女性は少なくありません。不妊治療やふたり目の子づくり・子育てに必要な時間を踏まえると、平均で5年くらいのキャリアブランクができてしまいます。出産前は正社員としてバリバリ働いていた女性が、数年間のブランクと育児を背負った状態で正社員に復帰するのは非常に厳しいことです。正社員として復帰できなければ昇進の可能性も消え、前職でどんなに素晴らしい実績を残したとしても次の就職先がそれを評価してくれるとは限りません。

たとえ正社員に復帰できたとしても、時短勤務により年収は前職の6割程度まで落ち込むケースも。また、日本では、共働きであっても家事や育児は女性の役割と考える傾向が強く、産後は仕事、家事に育児が加わり、女性の負担がますます増えてしまいます。また、育児を理由に仕事のレベルを下げないよう、睡眠時間を削って長時間労働と家事、育児を両立させているワーキングマザーもいますが、これでは身体にも負担をかけてしまいます(※7)。育児は女性だけでなく、男性にとっても大切なライフイベントのひとつのはずです。職場が育児を尊重し男性育児を推奨するなど、男性も主体的に育児に関われる環境づくりが必要とされています。家事を含むケア労働を女性ひとりが背負わずに、みんなで子育てをしていける環境は、社会全体にとってもプラスになるはずです。

キャリアとライフプランニングを両立させる時代へ

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女性の社会進出が叫ばれていますが、婦人科疾患を抱えて働く女性の年間の医療費支出や生産性損失をあわせると、およそ6兆円の経済損失にのぼるとも言われています。それだけ、女性の「健康」は社会にもインパクトを与えるということです。この国で女性が豊かに生きていくためには、社会全体にこれらのリスクを課題意識として持ってもらうことはもちろん大事ですが、それ以上に私たち女性自身も、より自分の健康と向き合う必要があります。

月に一度、ネイルサロンやヘアサロンに出かけたり…。それくらいの前向きな気持ちで、「自分の定期的なメンテナンス」の項目に「婦人科受診」も入れること。それは、目に見えない内側のメンテナンスにつながるだけでなく、将来のライフプランニングにも役立つはずです。長く働きたいからこそ備えたい、3つの「ふ」。まずは自分の身体を守るために、若いうちから行きつけの婦人科を見つけておきたいものです。結局、自分を助けてくれるのは、自分の早めの行動と決断なのかもしれません。
 

I LADY.編集部
君島 友喜 / ライター

1986年生まれ。大学卒業後、出版社でのアルバイトを経てフリーランスのライターに。現在は女性向けWEBメディアを中心に、ファッション、ライフスタイル、カルチャーなど多ジャンルで執筆中。